「温故集」にみる大洲藩主と家臣１６ 光泰と寺島家の出世のきっかけ

　この横山城の戦いは、加藤家以外の資料で確認すると、実際には５月であり、秀吉が岐阜へ行ったのではなく、近隣の味方の救助に駆けつけ留守にした時に起こっている。『大日本史料』によると、５月６日に浅井井規が近江国鎌刃城の堀秀村を攻め、それを横山城の木下秀吉が救援した戦いであった。近世前期成立の『浅井三代記』にも光泰の戦いが記される。光泰は、野一色介七と「火花をちらしてたゝかひ」、介七の打太刀で光泰の「ひざの口をぞわつたりける」と、『北藤録』と同様の記述がある。しかしその後、介七が光泰の首を取ろうとした時、苗木左介が助けに入り身代わりに首を取られたとある。この苗木左介は、『北藤録』の「一書」という別の説として登場する。左介は、光泰と兄弟の契約をし、そのため城の塀の上から飛び降り助けに入ったが、高いところから降りたため目がくらみ討たれたとしている。
　寛延４年（１７５１）成立の「加藤光泰貞泰軍功記」は、ほぼ『北藤録』と同じであるが、竹中重治が門を開け助けたので敵が引いていき、光泰は九死に一生を得たとある。その後は勝政が肩にかけ救助している。幕府へ提出した「寛政重修諸家譜」には、秀吉が長浜にある時と後の時代の状況となり、朝倉義景が攻めると敵を誤記している。しかし光泰が勇敢に戦い傷を受け、竹中重治が兵を出して助けたとする一連の流れは同じである。幕府へ提出した公式な系譜集であるので、家臣である勝政の名前はない。
　この後、光泰は足が不自由となり、少し脚跛（ちんば）になるとある。この足の不自由については、『北藤録』には後日談がある。時代は不明であるが、秀吉が伏見城において光泰へ料理を下賜した際、秀吉は自ら引物を光泰へ渡した。光泰は、頂戴しようと立ち上がったが、この横山城の疵で足が不自由となり、膳をひっくり返し料理が散乱した。それを見て笑った秀吉の近臣に対して、秀吉は光泰の足の不自由は武門の崇敬すべきことと叱ったとある。秀吉の伏見城入城が文禄２年（１５９３）９月、光泰の朝鮮での死去が同８月なので、大坂城、聚楽第での話か、全くの創作の可能性もある。
　加藤家において、この横山城の戦いは、光泰の合戦、負傷、功績の様子が伝えられ、また地名のある知行地、与力の名前など具体的な恩賞内容が記され、光泰にとって出世の発端となる合戦と位置づけていた。その合戦で主君光泰を救助した勝政の功績は、寺島家にとっても出世の発端となった。

コメント 5

突然失礼します！
加藤家を調べています。
大分県佐伯市には温故知新録という史料があり、加藤家と毛利家は縁戚になるのですが、今加藤光桂院殿という方がわからず悩んでいます。
お分かりであれば教えて頂きたいのですが、よろしくお願いします。
by 長谷 大分県 (2013-02-27 11:53) 

加藤光桂院殿に関して、史料に登場する年代、どのような記事なのか、毛利家のどの方と縁戚になるのか、ご教示頂けますか？
by 藤 (2013-02-27 12:42) 

佐伯藩第8代藩主毛利高標の正室は加藤泰みちの娘照、縁組は安永四年です。佐伯藩の温故知新録の法事帳のなかに参列、代参の名前に加藤光桂院殿というのがなんどか出てきたのです。例えば 、高標の初七日享和元年八月十九日に加藤家光桂院殿代参 中井要介とあります。
by 長谷 (2013-02-27 13:28) 

毛利高標に嫁いだ加藤家の女子は、『寛政重修諸家譜』によると、母が長女、恵氏に同じとあります。恵氏は下野喜連川氏に養子に入った泰みち息子の廉之助・泰矩にあたります。この恵氏は、桜井久次郎編『大洲藩新谷藩政編年史」年表』によると、 宝暦4年6月9日「江戸御部屋（町・光桂院）男子出生する。幼名廉之助（泰矩・恵氏）。〔加藤家年譜上泰みち〕」とあります。これらの史料から、光桂院は照の生母町にあたり、 泰みちの側室？にあたる人物であると考えられます。泰みちは、天明4年閏1月13日浅草屋敷に57歳で没しますので、光桂院と名乗るのもそれ以降だと考えられます。そのため享和元年の史料に登場しても問題ないと思います。しかし『大洲藩新谷藩政編年史」年表』の史料は「加藤家年譜」ですが、（町・光桂院）の部分は、桜井氏が何か他の資料から補足したと考えられます。
by 藤 (2013-02-27 14:05) 

ありがとうございました。泰みちの側室ではないかと想像はできたのですが、なかなか名前が出てこないので、そちら側で出てくるのではないかと思っていました。第9代毛利高誠に喜連川恵氏の娘が縁組していてその子どもが早世したときの法事帳にも光桂院殿が出ています。泰みちの側室で間違いなさそうですね。ありがとうございました。ブログを拝見できて良かったです。
by 長谷 (2013-02-27 14:55)