SSブログ

「温故集」にみる大洲藩主と家臣11 光泰・加藤家に関する顕彰と統制 [温故集]

 つぎに2藩祖である光泰や藩主家に関する顕彰・統制に関しては、天明期以前に戻り、泰衑から泰候までの30年間を概観する。宝暦元年(1751)2月9日泰衑は、「光泰貞泰軍記」を完成させる。この「光泰貞泰軍記」は、「加藤光泰貞泰軍功記」として『続々群書類従』3、史伝2(国書刊行会、1907年)に収録されている。内容は、同じ時期に編纂され宝暦9年に完成した「北藤録」の6~9巻「光泰、貞泰之伝」と同様である。奥書には、「系図并二代之軍功」とあり、軍功記の前に系図があったと思われる。続けて、二代の事蹟は家伝書や家臣が所持する書付などに詳しく記されているが、知られているのに記されていないことが多い。そのため自分がまとめた、としており、泰衑自身の筆と考えられる。
 この『続々群書類従』には、「曹溪院行状記」「加藤家譜」も収録される。いずれも内容は「北藤録」と同様であるが、「曹溪院行状記」の書き出し部分が、「北藤録」には「一書ニ曰、光泰遺骨ヲ甲州」と記されている。これらの史料は、「北藤録」編纂時に利用されたと考えられる。「加藤家譜」は、万治3年(1660)に加藤泰義から山崎闇斎に依頼して作られており、「北藤録」15巻に収録されている。泰義は2代藩主泰興の嫡男であったが、病死したため藩主とならなかった。しかし泰義は、「加藤家譜」以外にも、万治元年山崎闇斎に光泰所持の論語・孟子の「書加藤家蔵論孟」、寛文7年(1667)林春斎に光泰の片鎌槍の「倒韓槍記」と、光泰の顕彰を学者へく依頼している。『続々群書類従』の例言によると、いずれも大洲曹渓院所蔵とあり、同寺の僧が記したものと推定している。
 宝暦12年7月17日には伯耆米子の清洞寺が、光泰墓所の掃除料を願い出て、藩は12両を寄付した。清洞寺は、貞泰の米子時代の関連と考えられる。現在は清洞寺は廃寺となり、その跡は米子市の指定史跡となっている。その史跡説明によると、慶長15年(1610)貞泰が光泰の菩提を弔うために本源寺を開いた。その後、元和3年(1617)に池田由成の代に海禅寺、寛永9年(1632)に荒尾成利の代に禅源寺となった。その禅源寺が移転した後、荒尾氏の重臣村河氏が、この地に清洞寺を移し菩提寺にしたが、明治以降廃寺となった。現在、境内跡には3つの五輪塔があり右のものが、貞泰が光泰の供養のために作ったとされる。「北藤録」8には、光泰の墓所は甲斐善光寺から美濃黒野、伯耆米子へと貞泰の転封にともない移転したが、この米子で曹渓院となり九岳和尚を開基とした。墓所は、大洲へ移転したとされているが、甲斐の墓所と同じく、この五輪塔が墓所と認識され掃除領を寄進したとのではないだろうか。
 12月には甲斐古府中の光泰居城址の竹を取り寄せ、浅草藩邸の庭に植えている。光泰は天正18年(1590)甲斐一国24万石を領しており、当時居住していた古府中の竹である。「加藤光泰と甲府城、遠州藪」に記しているが、この竹は遠州藪と呼ばれ、浅草藩邸に移した後、天明5年泰候が竹を吉田丸に乗せて大洲へ送り、的場に植えている。 泰候が藩主就任後も顕彰は続き、安永8年(1779)11月19日には、光泰の木像が京都で完成し、確堂和尚が上方から随従して帰った。天明4年(1784)7月19日には、曹渓院・法眼院は、光泰および貞泰室の法号なので、以後、両寺はその山号を称するように布達された。12月泰候は、甲斐善光寺の光泰の御廟所を修復し、石燈籠を献納した。天明6年9月2日同じく泰候は、光泰・貞泰両代召し抱えの家士を残らずを呼出して、大洲城の書院において「北藤録」の両代伝書を読みきかせている。11月28日藩は、御目見以上の者に、藩主の代々の諱字を憚るように令達した。
 このように泰衑から泰候までの30年間で、藩祖光泰を中心に歴代藩主の顕彰・統制が進められた。これらは藩主が頻繁に、そして本家分家間で交代し、藩主家の不安定さを払拭することを目的にしたのではないかと考えられる。
コメント(2)  トラックバック(0) 

コメント 2

加

大変ご無沙汰しています。藩祖顕彰については、この泰衑から泰候までの30年間の行動が10代藩主泰済によって行われた藩祖の神格化へとつながったと考えています。
また、3代の泰恒も龍護山に光泰の墓石や開祖の碑を建てられており、加藤家では早い段階で光泰の顕彰が行われていたと考えています。
by 加 (2012-08-03 21:26) 

藤

ご無沙汰しています。藩祖顕彰は面白いテーマですね。ブログ「重箱の隅っこ」の「越智の随筆「ねさめのよまい」7」に紹介されています、米子の光泰の墓の事例も大変興味深いです。いろいろな事象が、あるテーマにつながっていくのですね。投稿もよろしくお願いします。
by (2012-08-04 22:19) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。